練馬ラボラトリー

理系院卒による数理ブログ

ポアンカレの補題の証明

ポアンカレ補題dd=0とその逆、原点周辺でBがよく定義されていて、dB=0ならポテンシャルAが存在してB=dA。電磁気ではベクトルポテンシャルスカラーポテンシャルの存在定理になっていて重要。ポテンシャルの構成が問題。

数学的の証明はチェインホモトピーを構成する方法。例えばフランダースの本に出ている。この方法はコホモロジー列がexacteであることを証明する一般的な方法でもある。

ここでは直接に積分する方を紹介します。単純に座標軸に沿って積分する方法です。ただし積分は1回では終わらず、何度も繰り返して近似的にポテンシャルを構成します。少し面倒だけど、何も考えずにガリガリ計算すればできるところがうれしいです。

例えば

\begin{equation}A=(x+y)dx+xdy\end{equation}

とする。dA=0なのでポテンシャル\phiが存在してd\phi=Aとなる。\phiを求めてみる。まずAを座標軸にそって積分する:

\begin{equation}\phi_{0}:=\int^{x}_{0} (t+y)dt+\int^{y}_{0} xdt\end{equation}

とおく。これは求めるポテンシャルではない。d\phi_{0}を計算すると

\begin{equation}d\phi_{0}=2A-xdx\end{equation}

となり余りxdxが出る。余りを再度積分する

\begin{equation}\phi_{1}:=\int^{x}_{0}tdt\end{equation}

この微分d\phi_{1}=xdxとなって積分が完了する。まとめて

\begin{equation}\phi:=\frac{1}{2}\phi_{0}+\frac{1}{2}\phi_{1}\end{equation}

と置けば、これがAのポテンシャルになっている。

というわけでこの方法は

(1)座標軸に沿って積分する

(2)微分すると余りが出る

(3)余りも同じように積分する

これを積分が完了するまで繰り返す方法です。

一般のp形式の場合もこの方法で積分できます。

ちなみに、上の例で出てきた1/2は空間の次元(今の場合は2次元)から決まる数です。

3次元空間の中の2形式の積分は、

\begin{equation}\int\omega(x,y,z) dx dy:=\int^{x}_{0}\omega(t,y,z)dt dy-\int^{y}_{0}\omega(x,t,z)dt dx\end{equation}

という具合に定義されます。dydzdzdxの項の積分も同様です。

例えばf=f(x,z)とおくと

\omega=fdydz-f_{x}ydzdx

は閉形式。1回目の積分

\begin{equation}\alpha_{0}:=2fydz-\int^{z}_{0}f(x,t)dtdy-\int^{z}_{0}f_{x}(x,t)ydtdx-f(0,z)ydz\end{equation}

という1形式が出てくるので、これを微分すると

d\alpha_{0}=3\omega-f(0,z)dydz

余りf(0,z)dydzをもう一度積分すると

\begin{equation}\alpha_{1}:=f(0,z)ydz-\int^{z}_{0}f(0,t)dtdy\end{equation}

これを微分すると

d\alpha_{1}=2f(0,z)dydz

となって積分完了。

見ての通り、積分する度に係数関数にゼロを代入していくので、原点でよく定義されていないといけませんね。

空間が可縮という条件です。

ディラックのファイバー束

はじめに

物理科や数学科では「Diracもファイバー空間を考えていた。」というのはかなり有名な言い伝えになっています。そのディラックの研究というのは、おそらく1931年の非可積分位相について研究した論文(ディラックモノポールで有名な論文)のことだと思われます(違うかもしれません。別の論文の可能性もあります。)学生時代に読もうとして挫折。最近思い出してまた読んでみました。

ゲージ変換

出発点はシュレンディンガー方程式です。

電子と磁場が相互作用するときは

\begin{equation}i\frac{\partial}{\partial t}\psi=\frac{1}{2}(i\nabla+A)^{2}\psi\end{equation}

ここでA=(A_{1},A_{2},A_{3})は磁場のベクトルポテンシャルです。B=dA=rot Aが磁場になります。物理定数は1にしました。

\psiが上の式の解だとすると\psi e^{i\gamma}

\begin{equation}i\frac{\partial}{\partial t}\psi e^{i\gamma}=\frac{1}{2}(i\nabla+A+\nabla\gamma)^{2}\psi e^{i\gamma}\end{equation}

の解になります。ここで\gamma=\gamma(x,y,z)

要するに、磁場のゲージ変換と波動関数の位相のシフトは同じだということです。

\begin{eqnarray}&&A\to A+\nabla\gamma\\&&\psi\to \psi e^{i\gamma}\end{eqnarray}

そして、磁場との相互作用まで広げると、e^{i\gamma}複素平面の回転作用ですから、波動関数にはU(1)対称性があることもわかります。

Aはその微分が磁場になるので、一般にdA\neq 0であり非可積分です。それでもディラックA積分\betaが存在するとしてd\beta=Aとおいて考察するわけです。これが非可積分位相です。

d\beta=Aは数学的にはフィクションですが

\begin{equation}de^{i\beta}=iAe^{i\beta}\end{equation}

には共変微分という形で意味をつけることができます。

接続

ベクトル束として構造群をU(1)とする複素ライン束E\to R^{3}を考えます。波動関数はその切断になります。Eの接続とベクトルポテンシャルのゲージ変換は同じ変換性を持つので、結局

Eの接続=ベクトルポテンシャル

になります。正確にはベクトルポテンシャル虚数をかけたiAが接続形式になる。

Eの局所基底としてe^{i\beta}をとると、共変微分(共変外微分)は、普通に微分して接続形式による線形変換を加えるだけなので

\begin{equation}de^{i\beta}:=i(d\beta)e^{i\beta}+iA e^{i\beta}\end{equation}

最後に改めてA:=d\beta+Aと再定義すると上の式が出てきます。

ゲージ変換が回転の場合

ディラックは非可積分位相についての考察に続いて、電荷量子化を導き出します。

大域的にはベクトルポテンシャルはゲージ変換で張り合っており、それに合わせて波動関数\psi\to \psi e^{ic\gamma}という具合に変換を受ける。ここでcは定数です。\gammaR^{3}内のある軸回りの回転角のときは、\gamma=0\gamma=2\pi波動関数のとる値は同じでなければならない。ここから

c=整数

という量子化条件が出る。物理定数を入れて次元の計算をすると、cのところに電荷や磁荷が現れる。

ディラックは実際に\gammaR^{3}内の回転角になるようなゲージ変換の例を作っています。そこからモノポールが出てくるわけです。難しくないので、その例を見てみる。

モノポール

回転軸として一般性を失うことなくz軸をとる。球面座標(r,\theta,\phi)で、z軸回りの回転角を\phiとする。波動関数のゲージ変換はe^{i\phi}ベクトルポテンシャルのゲージ変換はd\phi

球面座標の正規直交基底は(dr,rd\theta,rsin(\theta)d\phi)なので、正規直交基で書けば:

\begin{equation}d\phi=\frac{1}{rsin(\theta)}(rsin(\theta)d\phi)\end{equation}

従ってr=0\theta=0,\piにシンギュラリティーがある。

\thetaのシンギュラリティーを消す方法はすぐに思いつく。それは\pm 1-cos(\theta)を掛けること:

\begin{equation}A_{\pm}:=\frac{\pm 1-cos(\theta)}{rsin(\theta)}(rsin(\theta)d\phi)\end{equation}

これをそのままベクトルポテンシャルとすれば

\begin{equation}A_{+}-A_{-}=2d\phi\end{equation}

となってゲージ変換が軸回りの回転となる条件を満たす。

この時の磁場を求めると

\begin{eqnarray}B=dA_{\pm}&=&d(\pm 1-cos(\theta))d\phi\\&=&sin(\theta)d\theta d\phi\\&=&\frac{sin(\theta)}{r}\frac{1}{rsin(\theta)}(rd\theta)(rsin(\theta)d\phi)\\&=&\frac{1}{r^{2}}(rd\theta)(rsin(\theta)d\phi)\\&\to&\frac{1}{r^{2}}dr\end{eqnarray}

最後はホッジの星作用で変換した。こうして磁場の逆二乗則が出た。

感想

ディラックは必要に迫られてデルタ関数を発明したといわれていますが、上の共変微分にも似たものを感じました。モノポールのところはディラックの論文からは数学的に妥当な解釈を引き出すのが難しく(私の能力ではということですが)、ネットの解説記事

https://encyclopediaofmath.org/wiki/Dirac_monopole

を読んでようやく理解できました。

ちなみに日本の物理学者による解説記事や書籍も目を通しましたが、残念ながら全く役に立たなかったです。

 

最後に論文へのリンクを貼っておきます。

Dirac 1931 https://royalsocietypublishing.org/doi/epdf/10.1098/rspa.1931.0130

 

 

フロベニウスの積分定理

はじめに

基本定理ですがE. カルタンのレクチャーノート(1945)の証明をなぞってみたいと思います。

カルタンのレクチャーノートのコピー

R^{n}とその上の微分形式全体\Omegaを考える。

\Omega微分dを持つ次数付き可換環になっている。

原点で消えていない独立なk個の1形式

\omega_{1},...,\omega_{k}

が与えられたとする。

 Jをこれらの1形式から生成される\Omegaの生成イデアルとする。

J:=J(\omega_{1},...,\omega_{k})

ただし次数付き可換環イデアルであって、微分についてはイデアルになっているとは限らない。

積分条件

イデアルJ微分dに関してもイデアルである条件、すなわち行列\theta_{ij}が存在して

\begin{equation}d\omega_{i}=\sum\theta_{ij}\omega_{j}\end{equation}

を可積分条件という。\thetaたちは1形式です。

定理

積分条件を満たすとすると、正則行列F=(F_{ij})があって、式系\omega_{1},...,\omega_{k}は、完全形式からなる式系df_{1},...,df_{k}に変換できる:

\begin{equation}df_{i}=\sum F_{ij}\omega_{j}\end{equation}

この行列Fのことを積分因子、関数系f_{1},...,f_{k}\omegaたちの積分という。

葉層構造との関係

積分条件を満たすと、商環\Omega/Jが再び、微分を持つ次数付き可換環になります。

これが接ベクトル場からなるいわゆる包含的分布の双対になります。

つまり、次元が一定の場合、接束の部分束がLie algebroidといって、接ベクトル場の交換積が閉じる部分束になりますが、その双対束の上に誘導される微分形式が、ちょうど\Omega/J(と同型)になるわけですね。

R^{3}の平面の場合

カルタンの証明は実際に積分因子を求めるアルゴリズムを与えることです。

\omega:=\omega_{x}dx+\omega_{y}dy+dzを条件を満たす1形式とする。一般性を失うことなく\omega_{z}=1とした。

積分条件は、ある1形式\thetaが存在して

d\omega=\theta\wedge \omega

と書けることと同値である。

R^{3}内の曲線\gamma(t):=(x(t),y(t),z(t))を考える。

ガンマによるオメガの引き戻しが\gamma^{*}\omega=0となるとき、この曲線を\omega積分曲線という。

積分曲線のうち、特に\gamma(t)=(ta,tb,z(t))なるものを考えると、z(t)常微分方程式

\begin{equation}\frac{dz}{dt}=-\omega_{x}a-\omega_{y}b\end{equation}

の解である。ここでx,yはそれぞれa,bに固定されて定数とみなされている。解z(t)は不定積分なので積分定数Cを含む。

次にx,yを固定せずに変動させてみると

\begin{equation}\gamma^{*}\omega=(t\omega_{x}+\frac{\partial z}{\partial x})dx+(t\omega_{y}+\frac{\partial z}{\partial y})dy\end{equation}

となって一般にはゼロにならない。dtの項は相変わらずz(t)が上の常微分方程式の解であることから消える。

改めて

\gamma^{*}\omega=P_{x}dx+P_{y}dy

と書き直す。また\gamma^{*}\theta

\gamma^{*}\theta=Hdt+...

と書くことができるので、可積分条件d\omega=\theta\wedge \omegaから次の式を得る:

\begin{equation}\frac{\partial P_{x}}{\partial t}=HP_{x}\end{equation}

P_{y}の方も同じ。これを解くと、P(t=0)=0なのでP_{x}=P_{y}=0を得る。

積分因子を構成しよう。

P_{x}=P_{y}=0だからt=1とおいてtを消せば

\begin{eqnarray}\omega_{x}&=&-\frac{\partial z}{\partial x}\\\omega_{y}&=&-\frac{\partial z}{\partial y}\end{eqnarray}

z=z(x,y,C)からdzを計算すると:

\begin{equation}dz=-\omega_{x}dx-\omega_{y}dy+\frac{\partial z}{\partial C}dC\end{equation}

ここで積分定数も形式的に微分する。整理すると

\begin{equation}\omega=\frac{\partial z}{\partial C}dC\end{equation}

よって積分因子は

\begin{equation}F=\frac{1}{\frac{\partial z}{\partial C}}\end{equation}

 

偏微分方程式:Charpitの方法と正準方程式〜特性曲線の方法〜

問題

1階の偏微分方程式F(x,y,u,u_{x},u_{y}) = 0を解くという問題を考えます。

重要なのは解法のテクニカルな側面より、その哲学の方です。

偏微分方程式常微分方程式に比べて難しいので、問題をより簡単な常微分方程式に置き換えて解くのです。

まず、問題の偏微分方程式微分方程式とリレーションとに分解します:

\begin{eqnarray}dz-p_{1}dx-p_{2}dy&=&0\\F(x,y,z,p_{1},p_{2})&=&0\end{eqnarray}

ここでx,y,z,p_{1},p_{2}は独立変数でFR^{5}の上の関数。Fは微分を含まないただの関係式になりました。この分解は問題の鍵を握る重要なポイントです。

ハミルトン形式にすること

問題が解けたならばz=u(x,y)p_{1}=\partial u/\partial xp_{2}=\partial u/\partial yとなるので、これを先読みして改めて

\begin{eqnarray}\frac{\partial}{\partial x}&:=&\frac{\partial}{\partial x}+p_{1}\frac{\partial}{\partial z}\\\frac{\partial}{\partial y}&:=&\frac{\partial}{\partial y}+p_{2}\frac{\partial}{\partial z}\end{eqnarray}

と定義します。あえて同じ記号を使いました。

唐突ですが、(x,y,p_{1},p_{2})を相空間の正準座標とみなします。

まず、上で再定義した微分を使って、ポアソン括弧をいつものように

\begin{eqnarray}\{F,G\}:=\frac{\partial F}{\partial p_{1}}\frac{\partial G}{\partial x}+\frac{\partial F}{\partial p_{2}}\frac{\partial G}{\partial y}-\frac{\partial F}{\partial x}\frac{\partial G}{\partial p_{1}}-\frac{\partial F}{\partial y}\frac{\partial G}{\partial p_{2}}\end{eqnarray}

ここでG=G(x,y,z,p_{2},p_{2})なる関数です。微分は上で定義されたものが使われていることに注意。例えば

\begin{eqnarray}\frac{\partial G}{\partial x}:=\frac{\partial G}{\partial x}+p_{1}\frac{\partial G}{\partial z}.\end{eqnarray}

Fをハミルトニアンとみなし、正準方程式を解きます。そこから\{F,G\}=0を満たす、いわゆる第一積分

\begin{eqnarray}G(x,y,z,p_{1},p_{2},C_{1})\end{eqnarray}

を求めます。ここでC_{1}積分定数です。

第一積分が得られたら連立方程式

\begin{eqnarray}F(x,y,z,p_{1},p_{2})&=&0,\\G(x,y,z,p_{1},p_{2},C_{1})&=&0.\end{eqnarray}

を解いてp_{1}=p_{1}(x,y,z,C_{1})p_{2}=p_{2}(x,y,z,C_{1})を求めます。

パッフ形式\omega

\begin{eqnarray}\omega:=dz-p_{1}dx-p_{2}dy\end{eqnarray}

とします。これが完全可積分でなければ、積分は失敗ということになります。

積分して完全解

\begin{eqnarray}z=u(x,y,C_{1},C_{2})\end{eqnarray}

を得ます。

まとめ

  1. 数学的に問題になるのは可積分条件の箇所です。詳細は省きますが、下に私が勉強に使った論文のリンクを貼りますので、興味がある方はご覧くださいね。
  2. 個人的な趣味の問題で、ハミルトン形式として書いてみました。

参考文献

THE LAGRANGE–CHARPIT METHOD par MANUEL DELGADO (1997) https://core.ac.uk/download/pdf/51404814.pdf