練馬ラボラトリー

理系院卒による数理ブログ

フロベニウスの積分定理

はじめに

基本定理ですがE. カルタンのレクチャーノート(1945)の証明をなぞってみたいと思います。

カルタンのレクチャーノートのコピー

R^{n}とその上の微分形式全体\Omegaを考える。

\Omega微分dを持つ次数付き可換環になっている。

原点で消えていない独立なk個の1形式

\omega_{1},...,\omega_{k}

が与えられたとする。

 Jをこれらの1形式から生成される\Omegaの生成イデアルとする。

J:=J(\omega_{1},...,\omega_{k})

ただし次数付き可換環イデアルであって、微分についてはイデアルになっているとは限らない。

積分条件

イデアルJ微分dに関してもイデアルである条件、すなわち行列\theta_{ij}が存在して

\begin{equation}d\omega_{i}=\sum\theta_{ij}\omega_{j}\end{equation}

を可積分条件という。\thetaたちは1形式です。

定理

積分条件を満たすとすると、正則行列F=(F_{ij})があって、式系\omega_{1},...,\omega_{k}は、完全形式からなる式系df_{1},...,df_{k}に変換できる:

\begin{equation}df_{i}=\sum F_{ij}\omega_{j}\end{equation}

この行列Fのことを積分因子、関数系f_{1},...,f_{k}\omegaたちの積分という。

葉層構造との関係

積分条件を満たすと、商環\Omega/Jが再び、微分を持つ次数付き可換環になります。

これが接ベクトル場からなるいわゆる包含的分布の双対になります。

つまり、次元が一定の場合、接束の部分束がLie algebroidといって、接ベクトル場の交換積が閉じる部分束になりますが、その双対束の上に誘導される微分形式が、ちょうど\Omega/J(と同型)になるわけですね。

R^{3}の平面の場合

カルタンの証明は実際に積分因子を求めるアルゴリズムを与えることです。

\omega:=\omega_{x}dx+\omega_{y}dy+dzを条件を満たす1形式とする。一般性を失うことなく\omega_{z}=1とした。

積分条件は、ある1形式\thetaが存在して

d\omega=\theta\wedge \omega

と書けることと同値である。

R^{3}内の曲線\gamma(t):=(x(t),y(t),z(t))を考える。

ガンマによるオメガの引き戻しが\gamma^{*}\omega=0となるとき、この曲線を\omega積分曲線という。

積分曲線のうち、特に\gamma(t)=(ta,tb,z(t))なるものを考えると、z(t)常微分方程式

\begin{equation}\frac{dz}{dt}=-\omega_{x}a-\omega_{y}b\end{equation}

の解である。ここでx,yはそれぞれa,bに固定されて定数とみなされている。解z(t)は不定積分なので積分定数Cを含む。

次にx,yを固定せずに変動させてみると

\begin{equation}\gamma^{*}\omega=(t\omega_{x}+\frac{\partial z}{\partial x})dx+(t\omega_{y}+\frac{\partial z}{\partial y})dy\end{equation}

となって一般にはゼロにならない。dtの項は相変わらずz(t)が上の常微分方程式の解であることから消える。

改めて

\gamma^{*}\omega=P_{x}dx+P_{y}dy

と書き直す。また\gamma^{*}\theta

\gamma^{*}\theta=Hdt+...

と書くことができるので、可積分条件d\omega=\theta\wedge \omegaから次の式を得る:

\begin{equation}\frac{\partial P_{x}}{\partial t}=HP_{x}\end{equation}

P_{y}の方も同じ。これを解くと、P(t=0)=0なのでP_{x}=P_{y}=0を得る。

積分因子を構成しよう。

P_{x}=P_{y}=0だからt=1とおいてtを消せば

\begin{eqnarray}\omega_{x}&=&-\frac{\partial z}{\partial x}\\\omega_{y}&=&-\frac{\partial z}{\partial y}\end{eqnarray}

z=z(x,y,C)からdzを計算すると:

\begin{equation}dz=-\omega_{x}dx-\omega_{y}dy+\frac{\partial z}{\partial C}dC\end{equation}

ここで積分定数も形式的に微分する。整理すると

\begin{equation}\omega=\frac{\partial z}{\partial C}dC\end{equation}

よって積分因子は

\begin{equation}F=\frac{1}{\frac{\partial z}{\partial C}}\end{equation}